2013年4月10日水曜日

ブルガリ並みの配慮 iPhone「箱」に革命(上)

■手にした時のうれしさが違いますよね(個人の意見です)

ブルガリ並みの配慮 iPhone「箱」に革命(上)



 高級ファッションブランドのブルガリに匹敵するこだわり――。米アップルのデザインへの配慮は、製品に限ったことではない。製品を入れる箱のデザインにも徹底的にこだわっている。同社製スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」シリーズでも、他社の追従を許さない作り込みが隠されていた。
「iPhone 4S」や「iPhone 5」では、箱のデザインにもアップルの強いこだわりが感じられる
画像の拡大
「iPhone 4S」や「iPhone 5」では、箱のデザインにもアップルの強いこだわりが感じられる
 「これまで数多くの貼り箱を製作してきたが、こんな構造の箱を見たのは初めて。これが1年に数千万個も大量生産されているとは、にわかに信じがたい」。大阪で貼り箱の製造を手がける村上紙器工業所の村上誠・社長は、iPhoneシリーズの箱を分解して、感想をこう述べた。
 同社は顧客の要望に合わせたオーダーメードの貼り箱製作を得意とする工場だ。菓子のパッケージから高級オーディオを梱包する箱など、顧客の特殊な要望に合わせて、まざまな形状や用途の箱を開発してきた。
 その村上社長をして「初めて」と驚かせる箱とは、どのようなものなのか。日経デザイン誌は村上社長のほか、貼り箱製作に携わる技術者の協力を得てiPhoneの箱を分解して分析。その詳細を今回と次回の2回にわたってリポートする。
■硬い板紙に薄手の化粧紙を貼る
 iPhoneのケースとして利用されている箱は、一般には「貼り箱」と呼ばれる種類のものだ。これはボール紙などで出来た硬い板紙で箱の構造体となる下地を作り、その上から薄手の化粧紙を貼る形式のもの。
一般的な貼り箱の分解図(提供:村上紙器工業所)
画像の拡大
一般的な貼り箱の分解図(提供:村上紙器工業所)
 1枚の厚紙や段ボール紙を組み立てるだけで作る「組み箱」と呼ばれる箱と比較して剛性があり、箱の精度が高い。また、上に貼る化粧紙によって質感や箱の印象を自在に変えられることから、贈答用の菓子やジュエリーなど、国内外の高級ブランドの商品パッケージに使われることが多い。


一方で貼り箱は、機械で自動生産するのに限界があるため、製造コストが高いとされている。また、箱を製造するにあたって、その構造上いくつかの制約や特徴がある。
■「シャープな角」をとことん追求
 その1つが、箱の「角」だ。板紙で箱の下地を作るとき、一般的な貼り箱の場合は次のような工程となる(「一般的な貼り箱の構造」の図を参照)。まず厚紙に切り込みを入れて、それを切り込みの部分が外側になるようにして紙を折り込み、この上から化粧紙を貼るという手法だ。
一般的な貼り箱の構造。iPhoneの箱に比べると角が鋭くならない
画像の拡大
一般的な貼り箱の構造。iPhoneの箱に比べると角が鋭くならない
 このとき、折った角にはすき間が出来る(同図の右下の写真)。そのため、この上に化粧紙を貼ると角が取れて箱全体が丸い印象になるのだ。使い込んで角が取れた木箱のようにもったりとした見た目となる。

つまり貼り箱は箱に剛性感を出そうとして紙を厚くすればするほど、角の丸みが際立ってしまうのだ。しかし、アップルがそれを許すはずがない。シャープな印象をとことん追求したiPhoneを入れ、顧客に商品の特徴をプレゼンテーションするためのパッケージは、高い剛性感はもちろん、できる限り切り立ったエッジでなければならないと考えたはずだ。
■下地の工夫は序の口
iPhoneの箱の構造
画像の拡大
iPhoneの箱の構造
ブルガリが日本のみで展開しているチョコレートショップ、ブルガリ イル・チョコラートの「チョコレート・ジェムズ」。1個入りで税込み1500円という価格。この箱に使われているV字カットと呼ばれる技法が、iPhoneの箱にも使われている
画像の拡大
ブルガリが日本のみで展開しているチョコレートショップ、ブルガリ イル・チョコラートの「チョコレート・ジェムズ」。1個入りで税込み1500円という価格。この箱に使われているV字カットと呼ばれる技法が、iPhoneの箱にも使われている
 そこでアップルが採用したのが、板紙に90度の溝を彫り、それを内側に折って直角を作るという「V字カット」と呼ばれる手法だった。V字カットは手間なだけでなく加工に高い精度が要求されるため、非常にコストのかかる手法。この加工方法を採用したパッケージの中で、日経デザイン誌記者が知る最も身近な例が、1粒入りで1500円というブルガリのチョコレートのパッケージだ。
 アップルはこのV字カットの技法をベースに、いくつかの細工(「iPhoneの箱の構造」の図を参照)を施して、シンプルでエッジの利いたパッケージを作り込んだのだ。ある紙加工メーカーの技術者によると「V字カットは縦横2方向に入れると特にコストがかさむ。そのためiPhoneの箱では、短辺の側面の板を後から差し込んで接着するといった工夫をして、V字カットが1方向だけで済むよう、コスト面でも工夫を凝らしている」と分析している。
 だが、今回、iPhoneの箱の分析に協力してくれた村上社長によれば、「ここまではあくまで予想できる範囲の作り方」だと言う。「むしろ驚くべきは、こうして作った下地の上に貼る化粧紙にある」(村上社長)。では、その貼り方とはどのようなものなのか。詳細を後編で解説する。

iPhoneシリーズの箱の分解図。図中の写真は、iPhone 4Sの箱を分解したあと、その構造を再現したもの。内部の板紙はiPhone 4Sのものだが、外側の紙は分解の結果を基に村上紙器工業所の協力を得て作り直したもの
画像の拡大
iPhoneシリーズの箱の分解図。図中の写真は、iPhone 4Sの箱を分解したあと、その構造を再現したもの。内部の板紙はiPhone 4Sのものだが、外側の紙は分解の結果を基に村上紙器工業所の協力を得て作り直したもの
(日経デザイン 丸尾弘志)
[日経デザイン2013年3月号の記事を基に再構成]
=この連載の(下)は4月後半に掲載する予定です


0 件のコメント:

コメントを投稿

自己紹介

自分の写真
東京都, Japan
h-imoto@netyear.net 暇なわけではございません。仕事の一環で収集している情報の共有です!